2016年7月4日
国土交通省土地・建設産業局不動産業課不動産業指導室
意見募集担当 御中
「賃貸住宅管理業者登録規程」及び「賃貸住宅管理業務処理準則」の改正(案)に対する意見
サブリース被害対策弁護団 団長 弁護士 三 浦 直 樹
(連絡先)〒530-0041 大阪市北区天神橋3-3-3
南森町イシカワビル4F
エコール総合法律特許事務所
弁護団HP http://sublease-bengodan.jimdo.com/
一 意見の要旨
業として賃貸住宅を転貸する者(サブリース業者)に対し、以下の法規制を行うべきである。
1 管理主任者登録制度、営業保証金制度を含む義務的登録制度
2 誇大広告の禁止
3 貸主に対する重要事項説明及び転貸条件開示義務
4 不実告知・重要事項の不告知、断定的判断提供の禁止と違反時の取消権付与
5 預かり財産を確実かつ整然と分離保管する制度
6 招請勧誘・不招請勧誘を問わない一定期間のクーリングオフ制度
7 収支計画と現実の収支が齟齬した場合の差額を損害と推定する規定の導入
8 貸主からの解約・解除の制限禁止と契約終了時の転借人の保護
9 サブリース業者と一定の提携関係にある建築業者の連帯責任
二 意見の理由
1 不動産サブリース業にまつわるトラブルと問題の所在
不動産サブリース業とは、不動産業者が、オーナーから建物を一括で借り上げ、テナントに転貸して賃料を取得する事業を指す。同事業では、典型的には、サブリース業者が建物を一括で借り上げて、オーナーに対して、テナントの有無にかかわらず一括で賃料を支払う一方で、転貸人としてテナントに対する転貸や賃料請求を含めた建物管理の全般を行うことが特色である。
一方で、この種の契約は、不動産業者が、遊休地を保有するオーナーに、賃貸アパート等の建築を勧めるための勧誘とセットで締結されることも多く見られる。すなわち、この遊休地に収益物件を建築すれば、自社ないし提携する関連会社において一括借り上げしてサブリースするので、オーナーは、空室や家賃滞納といった賃料収入減少のリスクを避け、安定した賃料収入が得ることができる、相続税対策にもなるといった勧誘文言で契約を迫られることが多い。
しかるに、バブル崩壊以降、不動産価格と賃料相場の大幅な下落により、サブリース業者の多くが倒産したり、あるいは賃借人であるサブリース業者からオーナーに賃料減額請求がなされるなどの係争が頻発した。この点、平成15年10月の最高裁判決によって、不動産サブリースにも借地借家法第32条の賃料増減額請求が認められる旨判示されたが、他方、具体的な増減額の認定においては、契約締結に至る事情を考慮すべしとして、不動産業者による収益予測等も加味すべきである、とした裁判例も存する。
ところが、近年の不動産サブリース契約では、バブル期の賃料増額特約や固定賃料保証を改め、2年間程度ごとに契約期間を区切って、その更新において賃料の見直しを求めるなど、サブリース業者のリスク負担をオーナーに転嫁するような、賃貸人に不利益な条項等が数多く見られる。そのため、長期間の賃料収入を保証するという勧誘によって賃貸アパート等を建築しながら、当初収支計画が過大に見積もられていたことにより、その後の賃料を大きく切り下げられ、建築時に設定した住宅ローンの返済にも苦慮し、不動産を手放さざるを得ないなどの深刻なトラブル事例も見られるようになった。サブリース業者は、賃貸不動産のプロであるのに対してオーナーは素人であり、情報・交渉力の格差が明らかであるにもかかわらず、そのリスクがオーナー側に押しつけられているのである。
当団体は、専門家たるサブリース業者が、契約弱者たるオーナーに不当な勧誘を行うことによって発生する投資被害であることに鑑みて、不動産サブリース被害の救済と予防に取り組むために、消費者問題に関心のある大阪・京都・兵庫の弁護士・建築士によって結成された団体である。
2 賃貸住宅管理業との関係
不動産業者が、オーナーから委託を受けて、賃料収入の数パーセントの手数料を得て、オーナーのテナント募集や賃貸借契約手続を仲介することは、宅地建物取引業法上の媒介業に該当するが、これに加えて、オーナーから委託を受けて、テナントに対する賃料請求や督促、契約終了時の原状回復や敷金の精算等の賃貸管理全般を行うサービスも行われてきた。いわゆる賃貸住宅管理業である。
この賃貸住宅管理業者が、賃貸住宅管理委託契約に基づいて、オーナーに代わって、多くのテナントから賃料や敷金を預かりながら、経営破綻してしまうと、預かっていた賃料や敷金がオーナーに返還されないというトラブルが発生することになるが、サブリース業者の場合であっても全く同じ問題状況がみられる。
サブリース業者は、不動産賃貸業及び賃貸住宅管理業務に関する知識・経験が豊富な専門業者であり、一般に賃貸業の経験も少ない一個人にすぎないオーナーに比して、情報量・交渉力において圧倒的に勝る立場にある。にも関わらず、不動産サブリース契約にも借地借家法の適用が認められる結果、このような「専門家としての賃借人」(最高裁平成16年11月8日判決における滝井判事の補足意見)の方が保護される反面、オーナーには、十分な保護が与えられない構造となっている。
3 国土交通省の取組
サブリース業及び賃貸住宅管理業は、宅地建物取引業(宅地建物の売買、交換、又は宅地建物の売買・交換・貸借の代理若しくは媒介)に該当しないため、宅建業法の適用がなく、現行法においては、何ら規制する法律がない。
このような状況下で、国土交通省は、賃貸住宅の管理業務の適正化を図るための「賃貸住宅管理業者登録制度」を導入すべく、平成23年9月30日付の2つの告示により、「賃貸住宅管理業登録規定」(同年告示998号)と「賃貸住宅管理業務処理準則」(同年告示999号)を定め、いずれも同年12月1日から施行している。
この点、同省は、賃貸住宅管理業務に関して一定のルールを設けることで、借主と貸主の利益保護を図り、また登録業者を公表することによって、消費者が管理業者や物件選択の判断材料として活用することが可能になるとしている。
確かに、「賃貸住宅管理業登録制度」では、受託管理型(貸主の委託をうけて管理業務を行うもの)に加えて、サブリース型(貸主から賃借し、転貸人として管理業務を行うもの)に対しても賃貸住宅管理業としての任意の登録を促し、登録業者に対しては、貸主に対する重要事項説明と書面交付、借主に対する重要事項説明と書面交付、賃貸借契約の更新・終了時における書面交付や敷金精算額の書面交付等を義務づけ、財産の分別管理、帳簿作成と保存を義務づけるとともに、断定的判断や重要事項の不告知、不正行為を禁止し、誇大広告を禁止すること等を盛り込んだ登録規程及び業務処理準則によって、一定の規制を行うものである。
4 さらなる規制の必要性
しかしながら、現行の「賃貸住宅管理業登録制度」は、あくまで任意の登録制度に過ぎず、登録制度を利用しない賃貸住宅管理業者やサブリース業者には何ら規制を及ぼすことができない。
貸主や借主に対する重要事項説明ないし書面交付の違反や各種行為規制の違反に対する罰則や制裁は予定されておらず、唯一、賃貸住宅管理業登録規定に違反するなどした場合に、国土交通大臣が業務改善に関する勧告や登録取消ができるというにとどまる。
また、受領する家賃・敷金等の財産の分別管理も法律上の規定でないために、現実の倒産が生じた場合に確実に保全される保証はない。
そもそも、この制度は、あくまでも賃貸住宅管理業という業態に着目した規制にすぎず、冒頭に紹介した建築請負の受注とセットになった提携サブリースに関するトラブルの予防・救済を想定したものではなく、極めて不十分な制度である。
5 今般の改正案
今般の「賃貸住宅管理業者登録規程」及び「賃貸住宅管理業務処理準則」の改正が、上記の問題解決に資するものであれば、一定の評価に値する。
しかし、今回の改正案において、実質的にめぼしい内容は、賃貸住宅管理業者に「一定の実務経験者」の設置義務を定めたこと(「賃貸住宅管理業者登録規程」改正案7条)、サブリース型賃貸住宅管理業者の契約前および契約時の説明義務の対象に、「借賃(空室時等に異なる借賃となる場合は、その内容を含む)及び将来の借賃の変動に係る条件に関する事項」を追加したこと(「賃貸住宅管理業務処理準則」改正案8条1項4号、9条1項4号)、一括再転貸に関する規定を追加したこと(「賃貸住宅管理業務処理準則」改正案8条2項、9条2項)の3点にとどまり、上記の問題意識に照らして、畢竟、不十分と言わざるを得ない。
6 抜本的対策の必要性
そこで、不動産サブリース業にまつわるトラブル防止のための抜本的対策として、以下の内容を含む法規制を行う必要がある。
(1)管理主任者登録制度、営業保証金制度を含む義務的登録制度
宅建業法に倣い、宅地建物取引主任者制度と同様の有資格者の登録制度(同法第15条)、及び、営業保証金制度(同法第25条)と同様の損害賠償責任の履行を担保する制度が導入されるべきである。
(2)誇大広告の禁止
有利誤認・優良誤認表示の禁止等の誇大広告を禁止する宅建業法第32条に倣った広告規制も必要である。
(3)貸主に対する重要事項説明及び転貸条件開示義務
サブリース業者が、貸主たるオーナー及び転借人に対して、宅建業法第35条に倣った事前説明としての重要事項を説明する義務を負うべきは当然として、トラブル防止の観点からは、さらに、サブリース業者が転借人に転貸する際の契約条件についても、オーナーたる貸主に対して情報を開示する義務を認める必要がある。
(4)不実告知・重要事項の不告知、断定的判断提供の禁止と違反時の取消権付与
宅建業法第35条に倣って、不実告知・重要事項の不告知、断定的判断提供が禁止されるべきは当然として、さらに、消費者契約法第4条に倣って、これらに違反した場合の取消権も認められるべきである。
(5)預かり財産を確実かつ整然と分離保管する制度
商品先物取引業法第210条に倣って、受領する家賃・敷金等の財産の分別管理を規定し、サブリース業者が倒産した場合にも確実に保全される倒産隔離の制度を導入すべきである。
(6)招請勧誘・不招請勧誘を問わない一定期間のクーリングオフ制度
宅建業法第37条の2及び特定商取引法に倣ったクーリングオフが認められる必要がある。特に提携サブリースの場合、建築行為がなされた後の原状回復が極めて困難であることに鑑み、勧誘態様が招請勧誘であると不招請勧誘であるとを問わず、クーリングオフを認めるものとすべきである。
(7)収支計画と現実の収支が齟齬した場合の差額を損害と推定する規定の導入
損害立証が困難であることに鑑み、サブリース業者が示した事業収支計画と現実の収支が齟齬した場合の差額を損害と推定する旨の規定を置くべきである。
(8)貸主からの解約・解除の制限禁止と契約終了時の転借人の保護
実際のサブリース契約においては、貸主からの解約・解除を制限するものが散見されるが、貸主保護のため、かかる制限は禁止すべきである。また、契約終了時には、3者間の関係からサブリース業者が離脱し、貸主と転借人との直接契約になるが、その際、原賃貸借と転貸借の契約条件の齟齬等を理由として転借人が害されることのないよう、サブリース業者の責任において、転借人を保護するための措置を義務づけるべきである。
(9)サブリース業者と一定の提携関係にある建築業者の連帯責任
提携サブリースにおけるサブリース業者と建築業者の提携関係に鑑み、損害を与えた場合の賠償責任につき、両者に連帯責任を課すべきである。
以 上